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Microsoft Sentinelを活かすAI SOC:既存SIEM投資を無駄にしない運用自律化

Microsoft Sentinelを導入したのにインシデントを調査しきれない――その課題に対し、Sentinel標準の自動化と、Sentinelと連携するAIエージェントによる自律調査の活用方法を解説します。既存のログや検知ルールを活かした段階的な導入手順と、日本企業が運用を見直す際のポイントも整理します。

Microsoft Sentinelを活かすAI SOCと既存SIEM運用の自動化

Microsoft Sentinel を導入し、Microsoft 365 やエンドポイント、ネットワーク機器のログを集約する基盤は整った。しかし、日々生成されるインシデントを調査しきれず、未対応件数だけが積み上がっていく――。SIEM(Security Information and Event Management:ログを集約・相関分析して脅威を検知する仕組み)を導入した多くの組織が、この「導入は済んだが運用が回らない」という壁に直面しています。

原因は製品にあるのではなく、検知の後に続く「調査・判断・対処」の工程が、依然として人の手に依存している点にあります。ログの集約と検知ルールの整備は Sentinel が得意とするところですが、生成されたインシデントを一件ずつ読み解き、追加のクエリで裏取りをし、影響範囲を判断して対処するのは、24時間365日アナリストが張り付かなければ成立しない作業です。

本記事では、Microsoft Sentinel の基本構造を Microsoft Learn の記載に沿って整理したうえで、運用でつまずきやすいポイント、標準の自動化機能でできることとその限界、そして既存の Sentinel 環境をそのまま活かしながら AI エージェントに調査・対処を委ねる運用モデルと移行手順を解説します。投資した SIEM を「高価なログ倉庫」で終わらせないための考え方として、ご参考にしていただければ幸いです。

Microsoft Sentinelとは:クラウドネイティブなSIEM/SOARの基本構造

Microsoft Learn の概要ページは、Microsoft Sentinel を「マルチクラウドおよびマルチプラットフォーム環境全体でスケーラブルでコスト効率の高いセキュリティを提供するクラウドネイティブの SIEM ソリューション」と定義し、「AI、自動化、脅威インテリジェンスを組み合わせて、脅威の検出、調査、対応、プロアクティブハンティングをサポート」すると説明しています(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。オンプレミスに専用サーバーを構築する従来型 SIEM と異なり、Azure Monitor の Log Analytics ワークスペースを土台としたクラウドサービスとして提供され、SIEM の機能に加えて SOAR(Security Orchestration, Automation and Response:対応の自動化・連携)の機能を備えている点が特徴です。

Sentinel の機能は、大きく「収集」「検知」「調査」「対応」の4つの段階で整理できます。それぞれを支える主要な構成要素を、Microsoft Learn の記載に沿って確認します。

データコネクタ:ログを集める入口

データコネクタは、各種のログを Log Analytics ワークスペースへ取り込むための接続部品です。Microsoft Defender XDR や Microsoft Entra ID、Microsoft 365 といった Microsoft のサービスや、アマゾン ウェブ サービスに対しては、Azure 基盤を利用した「サービス間統合」がすぐに使える形で用意されています。ファイアウォールやプロキシなど Syslog や CEF(Common Event Format)を出力する機器については、Azure Monitor エージェント(AMA)を経由してイベントをストリーミングし、それぞれ Syslog テーブル、CommonSecurityLog テーブルに格納されます。さらに、コードレス コネクタ フレームワークや Azure Monitor のログ インジェスト API、Logstash などを使ったカスタムコネクタの作成も可能です(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。

コネクタは単体で提供されるだけでなく、「ソリューション」としてコンテンツ ハブからまとめて導入できます。Microsoft Learn によれば、ソリューションには「データ コネクタ、ブック、分析ルール、プレイブックなど、パッケージ化されたセキュリティ コンテンツ」が含まれ、製品ごとの検知ルールや可視化テンプレートが一緒に配置されます。なお、従来の HTTP データ コレクター API は2026年9月14日以降サポートされなくなると明記されているため、独自にログ連携を組んでいる組織は移行状況を確認しておく必要があります。

分析ルールとインシデント:検知から「ケースファイル」へ

取り込んだログから脅威を検知するのが分析ルールです。中心となるのは「スケジュールされたルール」で、Kusto クエリ言語(KQL)で書かれたクエリを一定間隔で実行し、定義された「ルックバック」期間の生データを調べます。このほか、1分に1回実行される準リアルタイム(NRT)ルール、機械学習でベースラインを学習し逸脱を Anomalies テーブルに記録する異常ルール(それ自体はアラートを生成しません)、脅威インテリジェンスと自動照合するルール、複数製品にわたる「多くの低忠実度のアラートとイベントを高忠実で実用的なインシデントに関連付ける」Fusion 相関エンジンなどが用意されています(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。Microsoft はコンテンツ ハブのソリューションで提供される分析ルール テンプレートの利用を強く推奨しており、ゼロからルールを書く必要は必ずしもありません。

ルールが検知した結果はアラートとして生成され、関連するアラートは「インシデント」に集約されます。Microsoft Learn はインシデントを「特定の調査に関連するすべての証拠の集計を含むファイル」と表現しており、ユーザーや端末、IP アドレスといったエンティティ、重大度、状態、MITRE ATT&CK の戦術・テクニックといった属性を継承します。インシデントの詳細ページでは、アラートのタイムライン、最も近い最大20件の「類似のインシデント」、エンティティの一覧、調査グラフによる関係の可視化、コメントやタスクの記録、アクティビティ ログによる操作履歴の確認ができ、ここがアナリストの調査の起点になります。

自動化ルールとプレイブック:対応を自動化する二層構造

Sentinel の SOAR 機能は、「自動化ルール(オートメーションルール)」と「プレイブック」の二層で構成されています。自動化ルールは、Microsoft Learn の表現を借りれば「さまざまなシナリオに適用できる少数のルールセットを定義して調整できるようにすることで、Microsoft Sentinel の自動化を一元的に管理する方法」です。「インシデントが作成されたとき」「インシデントが更新されたとき」「アラートが作成されたとき」の3種類のトリガーと、分析ルール名や重大度、タグなどの条件、そしてアクションの組み合わせで定義します。アクションには、インシデントへのタスク追加、状態の変更(既知の誤検知の自動クローズなど)、重大度の変更、所有者の割り当て、タグの追加、プレイブックの実行があります。ルールには実行順序と有効期限を設定でき、「ルールは常に順番に実行され、並列に実行されることはありません」と説明されています(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。

プレイブックは「脅威に迅速かつ一貫して対応するのに役立つ自動化されたワークフロー」で、Azure Logic Apps を使って構築します。自動化ルールから自動的に、あるいはアナリストが手動で実行でき、Microsoft Learn は推奨ユースケースとして、外部情報を収集してインシデントに添付する「エンリッチメント」、チケットシステムとの「双方向同期」、チャット基盤でインシデントキューを管理する「オーケストレーション」、侵害されたユーザーや端末へ即時に対応する「レスポンス」の4つを挙げています。例として「アカウントとマシンが侵害された場合、プレイブックは自動的にマシンをネットワークから分離し、SOC チームがインシデントの通知を受け取る前にアカウントをブロックできます」と記載されています。なお、プレイブックは Logic Apps を利用するため、Sentinel 本体とは別に追加料金が発生する場合があります(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。

運用環境の前提として押さえておきたいのが管理画面の移行です。Microsoft Learn には「2027年3月31日以降、Microsoft Sentinel は Azure portal でサポートされなくなり、Microsoft Defender ポータルでのみ使用できるようになります」と明記されており、Microsoft Defender XDR と統合されたセキュリティ運用体験への移行が進んでいます。運用手順書や権限設計が Azure portal を前提にしている組織は、この期限を見据えた見直しが必要です。

Sentinel運用でつまずく4つのポイント

Sentinel は SIEM/SOAR に必要な部品を一通り備えていますが、実際の運用現場では次の4点でつまずくケースが多く見られます。いずれも製品の欠陥ではなく、SIEM の運用負荷が本質的に「人の判断」に集中することから生じる課題です。

1. データ取り込みコストとログの取捨選択

Sentinel の課金は、基本的に Log Analytics ワークスペースへ取り込んだデータ量に基づきます。Microsoft Learn によれば、Analytics レベルの既定は「格納されている実際のデータ ボリュームに基づく」従量課金制で、データ量は GB 単位で測定され、一定量以上を取り込む組織向けには「1日あたり100GBから始まる」コミットメント レベルが用意されています。取り込んだデータは最初の90日間は無料で保持され、それを超える保持期間には Log Analytics の保有価格が適用されます。一方、Azure アクティビティ、Microsoft 365 の OfficeActivity、Microsoft Defender 製品群のセキュリティアラートなど、無料で取り込めるデータソースも定義されています(Microsoft Learn, 2026年9月閲覧)。

この仕組み自体は明快ですが、運用が始まると「検知に必要なログは何か」「監査目的で長期保存が必要なログは何か」という取捨選択の判断が絶えず求められます。取り込み量を絞りすぎれば調査時に手元にログがなく、増やせばコストが膨らみます。Microsoft Learn のベスト プラクティスでも、データ コネクタの優先順位付け、ログのフィルター処理、データ インジェストの最適化が推奨事項として挙げられており、一度決めれば終わりではなく継続的なチューニングを要する領域です。何のログを、何のために集めるべきかという設計の考え方は「なぜ今SIEMが必要なのか」でも解説しています。

2. 分析ルールのチューニングが終わらない

テンプレートから有効化した分析ルールは、自社環境に合わせたしきい値や除外条件の調整を経なければ、誤検知(フォールスポジティブ)を大量に生み出します。管理者の定期作業、脆弱性スキャナー、バックアップジョブなど、正常だが「怪しく見える」挙動は組織ごとに異なるためです。一方で除外を増やしすぎれば、本物の攻撃を見逃すリスクが高まります。ルールは KQL で記述されているため、チューニングには KQL を読み書きでき、かつ自社のシステム構成と業務を理解した人材が必要ですが、そのような人材は多くの組織で限られています。結果としてルールの棚卸しが後回しになり、「ノイズの多いルールは無効化して放置する」という状態に陥りがちです。

3. インシデントの山と「未対応」の常態化

ルールのチューニングが追いつかなければ、インシデントは生成され続けます。Sentinel はアラートをインシデントに集約し、類似インシデントの提示やタスク管理でアナリストの調査を支援しますが、それでも一件ごとの「これは本物か、影響範囲はどこまでか、何をすべきか」という判断は人が行う前提です。Tines が900人のセキュリティ実務者を対象に実施した調査では、業務上の主な課題として「データは多いが情報が足りない」を37%、「アラートが多すぎる」を30%が挙げています(Tines Voice of the SOC, 2023)。調査キューが処理能力を超えると、低・中重大度のインシデントは実質的に見られなくなり、重大度の低いアラートを起点に静かに進む攻撃を見落とすことになります。

4. 24時間張り付けるアナリストがいない

最大の制約は人材です。ISC2 の2024年の調査では、世界のサイバーセキュリティ人材の不足数は4,763,963人と推計され、前年から19.1%増加しました。また回答者の90%が、自組織のセキュリティチームに1つ以上のスキルギャップがあると答えています(ISC2 Cybersecurity Workforce Study, 2024)。前述の Tines の調査でも、実務者の63%が何らかのバーンアウト(燃え尽き)を経験し、55%が1年以内に転職する可能性が高いと回答し、50%が自分の SOC チームは人員不足だと述べています(Tines Voice of the SOC, 2023)。夜間・休日を含む24時間365日の監視体制を限られた人数で維持し続ける難しさは「夜間・休日のセキュリティ体制はなぜ回らないのか」でも取り上げていますが、Sentinel を導入したからといって、この人手の問題が自動的に解決するわけではありません。

Sentinel標準の自動化でできること、できないこと

これらの課題に対し、Sentinel が標準で備える自動化ルールとプレイブックはどこまで有効でしょうか。まず「できること」は明確です。既知の誤検知パターンに一致するインシデントの自動クローズ、分析ルールごとの担当者への自動割り当て、重大度や資産の重要度に応じたタグ付け、チケットシステムへの自動起票、脅威インテリジェンスや資産情報によるエンリッチメント、そして侵害が確定した端末の隔離やアカウントの無効化といった定型的な対処は、自動化ルールとプレイブックの組み合わせで十分に自動化できます。Microsoft Learn が「ほとんどのユース ケースでは、インシデントによってトリガーされる自動化が推奨される方法です」と述べているとおり、インシデントを起点に組むのが実務的です。

一方で、標準の自動化は本質的に「あらかじめ書かれた条件と手順の実行」です。自動化ルールの条件は、分析ルール名や重大度、タグなどのプロパティに対する「等しい」「含む」「で始まる」といった一致判定で構成され、プレイブックは Logic Apps 上に設計者が定義した分岐と処理の流れを実行します。つまり、「このインシデントは本物か」「このサインインは本人の出張中のアクセスか、認証情報の窃取か」といった、文脈を読んで仮説を立て、追加のログを引いて裏取りする調査の中核部分は、自動化の対象外のまま残ります。人が判断を下した後の処理は速くなりますが、判断そのものにかかる時間と人手は変わらないのです。

さらに、プレイブックは作って終わりではありません。連携先の API 変更や社内システムの入れ替えに合わせた保守、Logic Apps の追加コスト、実行権限の設計(Microsoft Learn では、自動化ルールからプレイブックを実行するには、プレイブックが存在するリソース グループに対する明示的なアクセス許可の付与が必要と説明されています)など、運用負荷は別の形で発生します。プレイブック型の自動化と、エージェントによる自律調査の違いについては「SOARとAI SOCの違い」で詳しく比較しています。

AIエージェントをSentinelの上で動かす運用モデル

そこで近年、Sentinel の収集・検知・自動化の基盤はそのまま活かし、「調査と判断」の部分を AI エージェントに担わせる運用モデルが注目されています。AI エージェントとは、大規模言語モデル(LLM)を中核に、目的に応じて自らツールを選び、複数の手順を計画・実行して結論を出すソフトウェアのことです。SOC の文脈では、熟練アナリストが行う調査手順――インシデントを読み、仮説を立て、ログを引き、証跡をそろえて判定する――を再現する存在として位置づけられます。AI SOC の全体像は「AI SOCとは?仕組み・従来型SOCとの違い」で解説していますので、ここでは Sentinel と組み合わせた場合の具体的な動きを見ていきます。

一般的な構成では、起点は Sentinel のインシデントです。自動化ルールの「インシデントが作成されたとき」トリガーから、プレイブックや API を介してエージェントにインシデントを引き渡します。エージェントは、インシデントに含まれるアラート、エンティティ(ユーザー、端末、IP アドレス、ファイルハッシュなど)、MITRE ATT&CK の戦術・テクニックを読み取り、「何が起きた可能性があるか」の仮説を複数立てます。ここまではデータの整理ですが、次の段階から人のアナリストに近い動きになります。

仮説を検証するために、エージェントは KQL を自ら生成して Log Analytics ワークスペースに追加のクエリを投げます。たとえば不審なサインインのインシデントであれば、同じユーザーの過去のサインイン傾向、同じ IP アドレスからの他ユーザーへのアクセス、直後に発生した端末側のプロセス実行やメール転送ルールの変更などを横断的に確認します。Microsoft Learn が KQL を「データの探索とパターンの検出、異常や外れ値の特定、統計モデルの作成などを行う強力なツール」と表現するとおり、KQL は Sentinel 上の分析・ハンティングの共通言語であり、エージェントが「追加調査の手」を持てるかどうかは、この KQL 実行能力に大きく左右されます。人手による相関分析の限界と AI による変化は「生成AI時代にSIEMはどう変わるべきか」でも述べたとおりで、エージェントはこの相関作業を24時間、件数の制約なく反復できる点に価値があります。

調査の結果は、実行したクエリと取得した結果、判定の根拠を含む「証跡付きのレポート」として、Sentinel のインシデントにコメントやタグ、重大度・状態の更新という形で書き戻します。これにより、人のアナリストは一次調査をゼロから行うのではなく、エージェントの結論と根拠を確認する「レビュー」から着手できます。判定が誤検知であれば所定の理由を付けてクローズし、真陽性であれば既存のプレイブック(端末の隔離、アカウントの無効化、チケット起票など)を呼び出して対処に移ります。対処を完全に自動で行うか、人の承認を挟むかは、インシデントの種別や重大度に応じて組織が決めるべき設計事項です。一次調査の手順と精度の担保については「アラートトリアージの自動化」で詳しく整理しています。

重要なのは、このモデルではログの保管場所、検知ルール、プレイブック、権限管理、監査ログといった既存の Sentinel 資産を一切置き換えていないことです。エージェントは Sentinel の「上」で動く新しいアナリストであり、Sentinel 側から見れば、インシデントを処理して結果を書き戻す利用者の一人にすぎません。だからこそ、既存投資を無駄にせずに導入できるのです。

既存投資を活かす移行手順:ログは動かさず、シャドーモードから

AI エージェントによる運用へ移行する際、多くの組織が懸念するのは「今の Sentinel 環境を壊さないか」「AI の判定は信用できるのか」の2点です。これらに応えるため、実務では次の順序で段階的に進めることを推奨します。

  1. ログとコネクタは動かさない。既存の Log Analytics ワークスペース、データコネクタ、保持設定はそのまま維持し、エージェントには必要最小限の権限(インシデントとログの参照)から付与します。ログを別基盤へ複製・移送する方式は、取り込みコストの二重化と保持ポリシーの分断を招くため避けます。

  2. シャドーモードで並走させる。最初の一定期間は、エージェントの調査結果をインシデントのコメントに記録するだけにとどめ、状態や重大度の変更、対処は行いません。同じインシデントに対する人のアナリストの判定と突き合わせ、真陽性・誤検知の一致率、見逃し、過剰判定を定量的に評価します。

  3. 対象ルールから拡大する。一致率が確認できた分析ルールから順に、エージェントによる状態変更(誤検知クローズ、重大度の再評価)を許可します。自動化ルールの条件で分析ルール名を指定すれば、対象を限定した段階展開が可能です。件数が多く判定基準が明確なルールから始め、実績を見ながら広げます。

  4. 対処は承認付きから。端末隔離やアカウント無効化などの対処は、当初はエージェントが「推奨アクション」を提示し、人が承認してプレイブックを実行する形で運用します。誤対処のリスクと影響範囲を見極めたうえで、限定的な種別から自動実行へ移していきます。

この手順を踏む利点は、各段階の成果が Sentinel のインシデント上に記録として残ることです。エージェントのコメント、状態変更、プレイブック実行はアクティビティ ログに残るため、「AI が何を根拠に何をしたか」を後から監査できます。評価項目の具体的な設計や、PoC(概念実証)で確認すべき観点は「AI SOCの選び方:PoCで確認すべき評価項目」にまとめています。

日本企業がSentinel運用を見直す際の実務ポイント

日本企業の実務では、いくつか固有の観点があります。第一に、監督官庁やガイドラインが求める「検知から対処までの記録」への対応です。金融機関や防衛サプライチェーンに属する製造業などの規制産業では、インシデント対応の証跡を残し、説明できることが求められる傾向にあります。Sentinel のインシデントを「唯一の記録台帳」と位置づけ、エージェントの調査結果もそこに集約すれば、監査対応の手戻りを避けやすくなります。

第二に、脅威と体制の現実です。IPA の「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「ランサム攻撃による被害」が11年連続で選出され、2026年版の組織向け脅威では1位に、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位となり、3位には「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選出されました(IPA, 2026)。ランサム攻撃は夜間や休日に本格化することが多く、平日日中のみの体制では初動が遅れます。一方で、国内で24時間の監視要員を自社確保できる企業は限られます。既存の Sentinel を活かして人以外の「調査の手」を増やすことは、増員が難しい状況での現実的な選択肢です。

第三に、複数拠点・グループ会社にまたがる運用です。国内本社と海外子会社、あるいは持株会社と事業会社でワークスペースが分かれている場合、すべてのログを一か所に集めるのではなく、各ワークスペースを横断して調査する「連合型」の考え方が有効です。詳しくは「Federated SIEMとは」をご参照ください。第四に、前述した管理画面の移行期限(2027年3月31日)です。Defender ポータルへの移行は運用手順やロール設計の見直しを伴うため、この機会に「誰が、どのインシデントを、どこまで自動で処理するか」という運用設計そのものを見直し、エージェントの導入を含めた体制を再設計することが合理的です。

ヤグラAI SOC:Microsoft Sentinelと連携する自社開発のAIエージェント

株式会社ヤグラが提供する「ヤグラAI SOC」は、ヤグラが自社開発するAI SOCサービスです。ヤグラはSIEMも自社開発しており、Microsoft Sentinelなどの既存製品との連携にも対応しています。一流アナリストの調査手法を再現した AI エージェントが、EDR・SIEM のアラートを24時間365日、自律的に調査・対処します。既存のSentinelを検知・ログ収集基盤として活用し、そのアラート調査をAIで支援する運用モデルに対応します。EDR・SIEM・ID管理製品など100以上のセキュリティ製品との連携に対応しているため、Sentinel 以外のログソースを併用している環境でも一貫した運用が可能です。

また、コンテキストメモリによって自社環境を学習し、運用を続けるほど調査精度が向上する設計になっています。これは、前述した「終わらないルールチューニング」の負荷を、エージェント側の学習で吸収していく考え方です。導入効果は、調査率、手動分析時間、人による追加確認の工数を自社のSentinel環境で測定し、担当者の負担がどの程度変わるかを検証してください。既に Sentinel をお使いの組織では、必要な連携や権限を確認したうえで、既存のログと検知ルールを活用するシャドーモードでの並走から評価を進められます。

まとめ

Microsoft Sentinel は、クラウドネイティブな SIEM/SOAR として、ログの収集、分析ルールによる検知、インシデントへの集約、自動化ルールとプレイブックによる対応の自動化まで、SOC に必要な基盤機能を備えています。しかし、取り込みコストの最適化、ルールのチューニング、積み上がるインシデントの調査は依然として人の手を要し、その人材は世界的に不足しています。標準の自動化は「決められた条件と手順の実行」には有効ですが、文脈を読んで仮説を立て、追加のログで裏取りをする調査の中核は自動化の対象外に残ります。

AI エージェントを Sentinel の上で動かす運用モデルは、この中核部分を担い、既存のログ・ルール・プレイブック・権限・監査ログを置き換えずに、調査率と対処速度を引き上げるアプローチです。ログは動かさず、シャドーモードで並走し、対象ルールから段階的に拡大する――この手順を踏めば、既存の SIEM 投資を活かしたまま、無理のない形で運用の自律化を進めることができます。

関連サービス:Microsoft Sentinelなどの既存製品と連携し、EDR・SIEMのアラートをAIエージェントが24時間365日自律的に調査・対処する「ヤグラAI SOC」の詳細はこちら。

参考・出典

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