Insight
2025年8月5日
サイバー攻撃が生成AIによって劇的に変化するなかで、SIEMとその管理者に求められる機能や役割も変わろうとしています。本ブログでは、生成AI時代のSIEM運用について解説します。
生成AIによって変化が求められるSIEM
サイバー攻撃の勢力図は、ここ数年で劇的に変化しました。
従来は一部の高度な攻撃者だけが可能だったゼロデイ攻撃や巧妙なフィッシング詐欺が、生成AI(Generative AI) の力によって一般化しつつあります。わずか数分で人間らしい文章を生成し、多言語に翻訳し、信憑性の高い偽情報や悪意あるコードを大量生産できる時代です。しかも攻撃の自動化・拡張はかつてない速度で進んでおり、これまで数日〜数週間かかった攻撃準備が数分〜数時間で完了するケースも増えています。
この新たな脅威の波は、既存のセキュリティ体制やツールに前例のない負荷を与えています。特に日本企業の現場では、セキュリティ担当者の不足やオンプレとクラウドが混在する複雑なシステム構成が、この変化への対応をさらに難しくしています。
こうした環境で、攻撃を監視・分析する中核ツールが SIEM(Security Information and Event Management) です。
SIEMは、ネットワークやサーバ、アプリケーションなど、組織内のあらゆるログを収集・正規化し、統合的に可視化・分析することで、インシデントを早期に発見します。従来のセキュリティ監視体制では、各システムが発するログは分断され、全体像をつかむことが困難でしたが、SIEMの登場により「攻撃の全貌を時系列で把握する」ことが可能になりました。
しかし、この強力な防御基盤にも限界があります。生成AIを駆使する攻撃者は、既知の検知ルールを回避し、従来型SIEMが苦手とする未知のパターンや言語的巧妙さを武器にしてきます。
典型的な課題は以下の通りです。
アラート疲れ:一日に数百~数千件、場合によっては数万件のアラートが発生し、本当に重要な脅威を見極めるのが困難。人間の処理能力を超え、見逃しのリスクが高まる。
リアクティブな運用:検知から分析、対応までに時間がかかり、攻撃の初期段階で対処できないケースが増加。
未知のパターン検知の難しさ:生成AIが生み出す新しい攻撃手法や、短期間で変化する脅威に対応しきれない。
つまり、生成AIが攻撃側の武器として浸透する一方、防御側のSIEMもまた「進化」しなければならない局面を迎えています。
単なるソフトウェアのバージョンアップではなく、防御の思想そのものを変革していく必要があるのです。
Yaguraは、生成AIによるサイバー攻撃防御のプロフェッショナルとして、法人組織の防御設計を研究してきました。その経験から明確に言えるのは、今後のSIEMには従来のログ集約・分析機能だけでは不十分だということです。これから必要となるのは、AIの力を取り込み、脅威の兆候を即座に把握し、状況に応じたアクションまで自動化できる“インテリジェントSIEM”です。
本記事では、まずSIEMの基本概念を整理し、その上で 生成AI時代に求められる5つのコア機能 を解説します。さらに、管理者が今取るべき具体的なアクションプランを検討していきます。
SIEMの基本と従来型アプローチの限界
1. SIEMとは何か
SIEM(Security Information and Event Management)は、企業や組織が保有するあらゆるIT資産から収集したログやイベント情報を一元管理し、セキュリティインシデントを検知・分析・対応するためのプラットフォームです。
主な機能は以下の通りです。
ログ収集と正規化:サーバ、ネットワーク機器、アプリケーション、クラウドサービスなど、多様なソースからデータを収集し、共通の形式に変換。
相関分析:異なるシステムから得られたイベントを関連付け、攻撃パターンや異常な挙動を検出。
アラート生成:検出ルールや機械学習モデルに基づき、脅威の可能性がある事象を管理者に通知。
レポーティングとコンプライアンス対応:セキュリティ監査や法令遵守のための証跡管理。
2. 従来型SIEMの強みと弱点
強み
全体像の可視化:ログを集約することで、攻撃経路や異常挙動の全体像を把握できる。
監査・コンプライアンス対応:金融庁やISO 27001などの監査要件に対応可能。
アラートの迅速化:複数システムを横断的に監視することで、単体監視よりも早く異常を検知できる。
弱点
アラート疲れ(Alert Fatigue)
包括的に検知するため、誤検知(False Positive)が大量発生。SOC担当者が数千〜数万件のアラートから重要度の高い数件を選別する必要があり、負荷が極めて高い。
この負荷が原因で、本当に重要なアラートを見逃すリスクが高まる。
リアルタイム性の限界
データ量が膨大な場合、相関ルールやクエリの実行が遅延。攻撃進行中に検知が遅れ、初動対応のタイミングを逸する。
未知の攻撃に脆弱
ルールやシグネチャに依存するため、新種マルウェアや生成AIを使った新しい手口への対応が後手に回る。
特に多言語のフィッシングや、文章構造を巧妙に変えた攻撃は見逃しやすい。
運用コストの高さ
SIEM自体のライセンス費用に加え、ルール設計・チューニング・インフラ維持に多大な人員と時間が必要。
3. 生成AI時代に浮き彫りになる限界
生成AIを使う攻撃者は、従来型SIEMの弱点をピンポイントで突いてきます。
自然言語のフィッシングメールで既知の検知ルールを回避。
自動生成マルウェアでシグネチャベース検知を無効化。
攻撃パターンを短時間で変更し、検知ルールの適用を困難にする。
こうした状況では、ルールベース依存のSIEMは「見逃し」と「誤検知」の板挟みに陥ります。
生成AI時代に求められる5つのコア機能
生成AI時代に必要な「5つのコア機能」
結論として、次世代SIEMはAIを内蔵し、兆候把握からアクションまでを自律的に最適化できなければ十分とは言えません。ヤグラは以下の5機能を「必須コア」と定義します。
1. 高度相関分析とAI検知
ML/LLMで複雑な因果・時系列を解析
ノイズ削減(誤検知最大70%削減の事例あり)
個別アラートを統合し、攻撃全体像を自動把握
2. 脅威インテリジェンスのリアルタイム統合
外部TI × 内部ログを自動相関
MITRE ATT&CKでTTPマッピング
新規C2やゼロデイ兆候を即時特定
3. 自動化レスポンス(SOAR連携)
アラート直後に隔離/遮断を自動実施
感染端末の自動隔離、悪性メールの一括削除、レポート自動生成
4. 多言語対応のインシデント解析
日英中など多言語ログ/メールを即時翻訳・解析
グローバルSOCでの共有・連携効率を向上
5. ルール&モデルの自動最適化
AIが検知ルール/モデルを継続評価・改善
誤検知多発ルールを自動修正
例:RuleGenieでSOCのルール調整時間を60%削減
管理者が今取るべきアクション
3つのステップ
現行SIEMの能力評価
False Positive率、検知漏れ率、MTTD/MTTR、AI機能の有無などを数値化。
AI拡張の導入計画
PoCから小規模導入、ROI検証を経て段階的拡張。
LLMによるアラート要約や日本語解析AIの導入。
SOC/CSIRT体制強化
生成AI攻撃ハンドリング研修。
インシデント共有プロセスの標準化。
よくある懸念とヤグラの見解
懸念1:AIで誤検知が増えないか?
MLを用いた優先度付けで誤検知54%削減かつ検知精度95%維持の報告、
ルール最適化で誤検知72%削減の報告、
従来30〜40%だった誤検知率が深層学習で10〜15%へ低減した研究結果もあり、改善効果は明確です。
(※本記事は外部追加調査を行わず、既存記述の範囲で言及)
懸念2:規制・プライバシーは大丈夫か?
オンプレ/プライベートクラウド運用やデータ匿名化により、個人情報保護法/GDPRへの対応は可能。
懸念3:コストが高いのでは?
クラウド型や段階導入で初期費用を最大50%削減。
誤検知削減と対応時間短縮により人件費が逓減し、長期ROIを押し上げます。
FAQ(生成AI SIEM 機能)
Q1: 生成AI時代にSIEMはなぜ重要?
A: 高度化・多様化する攻撃をリアルタイムに検知・分析し、迅速対応するための中核基盤だからです。
Q2: 従来型との違いは?
A: ルールベース依存か、AI/MLを活用して未知の脅威も検出できるかの違いです。
Q3: 必須機能は?
A: 高度相関分析、TI統合、自動化レスポンス、多言語解析、ルール自動最適化の5つです。
Q4: 誤検知は増える?
A: 最新事例ではAIで誤検知率が大幅低減しています。
Q5: コスト効果は?
A: 誤検知削減や対応時間短縮によるコスト削減効果が実証されています。
Q6: 日本市場での注意点は?
A: 多言語対応、日本法令順守、SOC連携がポイントです。
Q7: ベストプラクティスは?
A: ルール最適化、AIモデル更新、外部TI統合、SOCスキル研修です。
まとめ
生成AIは脅威の質と速度を劇的に変えました。
5つのコア機能を備えた次世代SIEMは、防御体制を刷新するための必須基盤です。
株式会社ヤグラは、この変革を伴走型で支援するAIセキュリティのプロフェッショナル集団です。
セキュリティ体制構築に関するご相談があれば、お気軽にご相談ください。